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あの頃はただ不器用で、気持ちの半分も言葉にすることができなかった。
届かない想いに苛立ちを感じ、傷つけることしかできなかった。
『お前のことなんか、女として見ている訳がないだろ』
『こっちこそ、あんたみたいな男願い下げよ!』
売り言葉に買い言葉。
わかり合えなかったのは、胸の奥の弱さをさらけ出せなかったからだ。
人間ならば、弱さを持っていて当然なのは、わかり切っていることだった。
たった一つの後悔。
生涯忘れることのない、深い傷。
高校を卒業したばかりの子供に、恋愛の深さなどわかるはずもない。
気が合うからこそ、恋愛の対象にはしたくなかった。
けれど、心は彼女を一人の女として見ていて、矛盾した感情の中、何とか理性を保った。
今更、あがいたところで時間は戻りはしない。
心に空いてしまった大きな穴は、修復不可能な程、今も大口を開けている…――。
「クロ、時間だろ?」
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