【手紙】

2/40
36人が本棚に入れています
本棚に追加
/56ページ
   あの頃はただ不器用で、気持ちの半分も言葉にすることができなかった。  届かない想いに苛立ちを感じ、傷つけることしかできなかった。 『お前のことなんか、女として見ている訳がないだろ』 『こっちこそ、あんたみたいな男願い下げよ!』  売り言葉に買い言葉。  わかり合えなかったのは、胸の奥の弱さをさらけ出せなかったからだ。  人間ならば、弱さを持っていて当然なのは、わかり切っていることだった。  たった一つの後悔。  生涯忘れることのない、深い傷。  高校を卒業したばかりの子供に、恋愛の深さなどわかるはずもない。  気が合うからこそ、恋愛の対象にはしたくなかった。  けれど、心は彼女を一人の女として見ていて、矛盾した感情の中、何とか理性を保った。  今更、あがいたところで時間は戻りはしない。  心に空いてしまった大きな穴は、修復不可能な程、今も大口を開けている…――。 「クロ、時間だろ?」
/56ページ

最初のコメントを投稿しよう!