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思誓が教室に入った時、彼の姿はなかった。
窓から見える灰色の空。今にも泣き出しそうだ。
謝ろうと決めたのだからすぐに逢いたかったが、彼が教室にいない事を知り内心ほっとしていた。彼と自分が水と油だからとかではなく、ただ謝れる自信が自分になかったからだ。謝りたくないのではない。あれだけ彼を拒絶しておいて、今更「ごめん、許して」なんて台詞は何だか虫が良すぎる気がするし、自分がそんなに素直に本当の気持ちを相手に伝える事が出来ないと思うからだ。
謝りたい、謝れない。
そんな意識の狭間で思誓は少し落ち込んでいた。
自分の席へ向かう途中、室内にいた十数人のクラスメイトが陽気に挨拶をしてきたが、はっきり言って知らない顔で名前も分からないので声ではなく作った儚げな笑みを返しておいた。
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