夏の荷物

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「杉咲さんですか?」 「はい」 「あなた宛てに荷物が届いてます。重いんで今から、二人がかりで玄関まで持って来ますね」 「はい」 業者は小走りでトラックに行く。 宅配と言いつつも、その光景は引っ越しの荷物を運ぶそれに近い。 空は白く、それでも太陽は照り、地面は白い煙を上げてゆらゆら揺れる。 流れる汗は乾かすことをしらない生温い風に吹かれ、これでもか、と言わんばかりに夏というモノを思い知らせる。 初夏の気持ちのよい風などとうになく、あるのはひたすらな暑さのみ。 蝉の鳴き声も、気力を削ぐ音のナイフにしかならない。 「やっぱ、外は暑いな」 こんなにも晴れ渡る空。強い光は強い影を作り、自分はまさにその影だろう。 「ハ――こちらが、荷物と、なります」 息苦しそうに先ほどの業者がやってくる。 向かいには同じように緑の業者。 年齢もこの業者と大差ないだろう。 「大きい荷物ですね」 俺の腹、丁度人がしゃがんだ程度のダンボールがドアの前に置かれる。 「こちらの紙にハンコかサインをお願いします」
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