1.奇妙な関係

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「いや、暇だったんで」 少し大きめの声で壁に向かってそう話しかけると、向こう側から小さな笑いのような声が聞こえた。 「何かおかしいっスか」 俺がそう続けると、 『高宮はいつも暇だな』 半分笑いながらそう返ってきた。 佐々木さんは別段、明るい性格って感じでもなく、かと言って引きこもりみたいな感じでもない。 普通に会話してくれて、反応もごく普通。ただ最近、佐々木さんは天然っぽいことに気づいた。 この間俺が携帯を水没させた話をした時に、俺は必死に悲しさと怒りをぶつけたのに、 『新しいのに変えられるね』 なんて、マジ声で言われてしまった。 変な人だ。 俺は口にくわえていた食パンを一口かじりながら、壁の方をしっかりと向けるように座り直した。 「佐々木さんって彼女とかいないんスか?」 今日は比較的誰にでも通じそうな話題を選んでそう聞いた。 なのに、 『高宮は?』 と、質問に質問で返された。 「俺はいないっスよ。モテないんで」 答えると、今度は明るい声で、 『じゃあオレもそれで』 って返ってくる。 まったくもって意味がわからない。 教えたくないって意味なんだろうか。いや、きっとそうに違いない。 でもそうなると余計に聞きたくなるのが人のサガってもんで。 「どんな彼女なんスか?」 わざと意地悪そうな声でそう聞いてみた。 『だからいないって言ってるだろ』 「絶対ウソだぁ~」 『女の子と遊ぶ時間なんて僕ちゃんには無いのですよ』 聞こえた口調に、俺は少し吹き出して。 「そんなこと言って、モテないだけなんじゃないんでちゅか?」 俺も真似してそう言って。 『良かったら紹介してくだちゃい。僕ちゃん女の人は恐くて近づけないんでちゅよ』 そう返ってきた佐々木さんの声が、笑ってる。
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