第1念 「醜さの象徴」

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少年は相変わらず図鑑を眺めていた。 一瞬、目の前が黄色くなったような錯覚に襲われた時、異変に気付いた。 身体がビリビリと痺れ、とてつもなく熱くなってくる。 やがて、視界に入ってくるのはメラメラと揺れる赤いもの。 それらはほんの数秒の出来事だった。   昆虫図鑑が燃えている。 速くも黒く灰になりつつある。 自分も燃えている。 瞬く間に身体の自由が奪われていく。   熱い……熱いよう……。 助けて、じいちゃん……助けて助けて……。 お父さん……お母さん……   その言葉は口には出なかった。 ただ、そう思うだけで精一杯だった。       その日、森崎という表札がかかった一軒の古い家から火があがった。          
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