第15念「それぞれの思い」

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以前、由美が組織に囚われの身になったとき、そこで万場逸郎と再会した。 あの時、万場は父から預かっているものがないか、そしてそれを差し出すように言った。 由美は最初それが超能力の研究資料だと思ったのだが、研究資料と同じものは向こうも持っているらしく、彼らが探しているものは 鍵 と呼ばれるもので、しかもその 鍵 は由美自身の身体に染みついているという。 自分の身体に染み付いた 鍵 。 それが何なのか、そして気を失っている間に写し取られたという意味も未だに分からない。 自身に秘められた秘密に言い知れぬ不安を覚えるのだった。   だが彼女の疑問はそれだけでない。 研究資料以上に解せないことが多いのが父の人間関係、及び周辺の人間達に関することである。 父の恩師である土田教授によると、万場は機械工学の専攻だったにもかかわらず何故か超能力の研究に協力していたらしい。 そしてその万場の恋人にして、もう一人の研究者であり、研究資料と共に残された写真にも写っていた香坂由美という人物は在学中に自ら命を絶っている。 この女性についての手がかりは無いに等しく、また既に故人であることから、父と共に超能力の研究をしていたという最低限の事実しか分かっていない。 ただ、由美がずっと気になっているのは、彼女と自分の名前が全く同じ『由美』であるということだ。 ただの偶然と言ってしまえばそうかもしれない。 しかし、自分の同僚、それも親友の恋人と娘の名前が字も含めて全く同じになるということが納得しきれなかった。 何の意味も無く、自分の娘に親友の恋人と同じ名前をつけるとは考えられない。 直感だが、何か意味がある。 だとしたら、父はどのような考えや思いで娘である自分に『由美』と名付けたのだろうか。 そして、3人の間には何があったのだろうか。   さらに父の人間関係においてもう一つ謎がある。 波多野 薫の存在である。 これまでそれほど重要とは考えていなかった手帳から突如浮かび上がった人物。 結局この人物と父を繋ぐ接点も分からずじまいだが、この2人を繋ぐ糸さえも超能力が関係しているのではないかと思わずにはいられない。 これまでの出来事にきっと例外は無い。 全てが超能力で繋がっている。   由美は改めて思う。 研究資料に書かれている内容に対してではなく、その概念に対して。   「超能力とは何なの?」  
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