第15念「それぞれの思い」

112/115
283人が本棚に入れています
本棚に追加
/806ページ
父を取り巻く謎は多い。 由美はその核心に迫る為の努力を惜しまなかったが、どれも良い結果には結びつかなかった。 一人の女子高校生に出来ることなどたかが知れていると言ってしまえばそれまでだが、これまでのことを振り返ると決してそれだけではないと思える節がある。 それは誰かが真実にたどり着こうとするのを妨げているような気がしてならないのだ。 父の超能力研究に何らかの協力をしていたと思われる宮木博士は、由美達が彼の元を訪れる寸前に研究所で発生した火災によって死亡。 父の恩師であった土田博士は由美が訪ねた後に何者かに殺害され、波多野 薫も不可解な死を遂げている。 そして、由美の携帯電話にメールで送られた謎の脅迫文。 これは何者かが父に関する事実を隠蔽しようとしているようにしか思えないのだ。 組織の仕業であることも考えた。 しかし、彼らは父の全てを把握しているわけではなく、これまでの暗躍もどちらかというと父の研究の全容を知ることが目的の一つであった。 事実、 鍵 と称されるものを求めて自分に接触してきたのだから。 だとすれば、組織とは別の存在が動いているとしか考えられない。 それを象徴するのがあの超獣とも言うべきミューターの一件である。 あのミューターは組織の幹部格であった咲宮茜もその存在を知らなかったうえ、彼女を殺害してしまった。 組織の構成員を『家族』と称する彼らがそう簡単に『家族』を手にかけるとは思えない。 それに、五郎によるとあのミューターを操っている存在がいるのだという。 由美にも心当たりがある。 あの時、彼女にだけははっきりと不気味な声が聞こえた。 『お前の存在が人間の世界を終わらせるのだ、加納の娘よ』   あの声は思い出すだけで身体を震えさせるようなものだったが、それ以上に言葉の意味の不明瞭さが彼女を戦慄させる。 自分の存在が人間の世界を終わらせる。 まさか自分が人間を滅ぼすとでもいうのだろうか。 馬鹿げていると一蹴する由美だったが、あれ以来どうしても一蹴しきれずにその意味をあれこれ考えていた。 いくら考えてもその意味が分かるはずもなかったが、考えていないと恐怖に心が押しつぶされそうになるので、どうしてもあれこれ考えてしまう。   何か重要なことを見過ごしているのではないか・・・・   それが考えた末にたどり着いた結論だった。
/806ページ

最初のコメントを投稿しよう!