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由美はベッドから身体を起こし、机に向かうと引き出しから一枚の写真を取り出した。
そこには幼い頃の自分とまだ若い父・加納隆三が写っていた。
加納隆三は科学者としては優秀だったかもしれない。
超能力の研究について彼の右に出る者などいないのかもしれない。
でも、本当はそんなことは由美には関係なかった。
彼は科学者である前に、加納由美の父だったのだから。
生まれてすぐに母親を亡くし、母親の記憶などほとんどない由美にとっては父だけが唯一家族だった。
超能力の研究をする傍ら、男一人手で由美を育てることは想像以上に大変だったはずだが、加納隆三はそんな様子を見せることなくいつも優しく笑っていた。
研究の合間には遊園地や水族館、動物園にも連れていってもらい、寂しい思いをしたことはほとんどなかった。
いつも優しく、頼れる父。
それが加納隆三だった。
しかし、今の由美の父に対する思いは変わりつつあった。
万場はこうも言っていた。
自分の知っている父は理想の父親像、あるいは虚像ではないか、と。
最初はただの戯言だと思っていたが、研究資料を読み進めていくうちに抱いた疑念がその言葉を何度も頭の中で響かせる。
由美はずっとこの疑念を振り払おうとしてきた。
自分の知っている父なら、そんなことをするはずがないと何度も自分に言い聞かせた。
だがもしも、自分の知らない父がいたとしたら?
科学者としての知らない父なら、そうしたかもしれない。
考えたくはないが、そう考えない限りはありえない。
これだけの研究資料を残せるはずがない。
この結果を出すに至った『過程』、もしくは『過程』を記した別の資料がどこかにあるはずだ。
『過程』、それは即ち・・・・・・・・
違う!
違うわ!!
お父さんはそんな人じゃない!!
わたしのお父さんは・・・・お父さんは・・・・・・・・
信じていたい。
今は亡き思い出の中の父を信じていたい。
なのに、今は信じきれない自分がいることが悔しく、そして悲しかった。
「お父さん・・・・」
目から溢れた涙が頬を伝い、写真を濡らした。
涙で目がぼやけるように、由美の中の父の姿もぼやけていくように感じた。
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