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信じられるものを見失い、由美は失意の底に沈みかけていた。
そんな彼女の目にとまったのは机の上にある真新しい写真立てだった。
その写真には同じ制服を着た4人の男女が写っている。
一人は他ならぬ自分自身、加納由美である。
二人いる男子のうち、少し小柄で一見頼りなさそうにすら見える彼は森崎五郎。
しかし彼は誰よりも強く、そして心優しい少年だった。
もう一人の彼は浅野徹二。
明るく良い意味で大雑把な彼の性格はみんなの精神的支えだと言ってもいい。
写真の中で少し居心地が悪そうに写っている彼女は桐井理穂。
素直になれない不器用な性格だが、仲間を思う気持ちは強く、根は優しい少女である。
そうだ。
信じれるものはある。
超能力という望まぬ縁でつながりながらも、築き上げたその絆は固く、かけがえのないものだ。
これに勝るものなど何もない。
一人ではない。
仲間がいる。
たとえどんなに残酷な事実がこの先に待ち受けていようとも、彼らとなら乗り越えられる。
超能力者の世界の創造という独善的な目的の為にこれ以上誰かが血や涙を流し、犠牲になってはならない。
誰かの為に戦い続ける仲間達をずっと見てきたからこそ分かる。
決して復讐の為などではなく、復讐はおろか、誰一人辛く悲しい思いをしなくても済むような世界を仲間達と築き上げる。
そこには超能力の有無も関係ない。
そんな世界がわたしの理想だ。
亡き親友へ由美は誓う。
「律子。わたしは親友のあなたを助けることは出来なかった。だけど今度は違う。わたしはこれ以上何も失うわけにはいかない。彼らだけは何があっても守るわ」
2人の友情の証であり、超能力を得るきっかけとなった犬のジローとの出会いと死から今日に至るまでの全てのことを背負ったうえで、加納由美は決意を新たにするのだった。
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