第16念「理想郷」

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想像以上だった。 これがユートピア・エリアを訪れた人々の共通の感想。 「あらゆる至福を統合した未来ある空間」をコンプセプトに作られたその場所は最早テーマパークどころか都市というにも十分なものではなく、国家という言葉でも足りるかどうかも疑わしいほどに大規模で、充実した施設や設備が詰め込まれていた。 巨大ビル群が立ち並ぶ人工的な都心部もあれば、農作物や畜産を生産する自然豊かな農場、風力や水力などを駆使したクリーンな発電所に交通網の完備と、このエリアだけで全てがまかなえてしまう。 はたしてここまでのものを作るのにどれほどの財力が費やされたのだろうか。 当然、このプロジェクトは協力した企業や資本家達が懐に流れてくるであろう莫大な利益を見越しての投資が前提ではあるが、これほどの充実した都市は一般市民にも拍手で迎え入れられた。 12月24日の今日はここ東京エリアの開放日であり、今後はこの都市への移住計画も進むばかりか、これをいずれは全国8箇所の同エリアでも行うというのだから、ユートピア・エリアの発展は続いていくだろう。   10:00の開場に合わせて入場ゲートから一気に人々が流れ込む。 全国から集まった人々の中には徹夜で入場ゲート前に並ぶ者もおり、開場5時間前の時点で長蛇の列が出来るほどだったが、開場と同時にその列は瞬く間に縮んでいった。 それは大量の人間が一気に押し寄せても、詰まることなく中へ流れ込めるほどにユートピア・エリアが広大であることを意味していた。 前衛的な街並みに目を輝かせながら、人々はありとあらゆる『幸福』に身を委ねた。 ここには人間が思いつく全ての『幸福』があった。   人々は口を揃えて言った。   ここは『理想郷』であると。      
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