第16念「理想郷」

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そんな『理想郷』に酔いしれる民衆の中に4人はいた。 森崎五郎、加納由美、浅野徹二、桐井理穂。 彼らは知っている。 ここは人間にとっての理想郷ではない。 人間を否定する者達が今日『理想郷』と呼ばれるこの場所で何かを行おうとしている。 それが具体的に何なのかは分からないが、少なくとも人間に幸福をもたらすものではないことだけは確かだ。 敵の計画を阻止する為に今日一日ここに留まり、今も何かしらの手がかりを求めてエリア内を移動している。 だがしかし・・・・・・・・   「なんだよこれ・・・・」   浅野の顔には既に疲れの色が見えている。   「聞いてはいたけど、さすがにこれほどまでとは」   「とても一日で周りきれる気がしないわ」   五郎と由美はあからさまに困惑していた。 何故なら、ユートピア・エリアは広かった。 広すぎたのだ。 これまでユートピア・エリアが巨大な都市であるという宣伝を散々見聞きしていたとはいえ、正直なところ、彼らの感覚では遊園地程度の広さとしか認識していなかった。 もっとも、そこは普通の高校生であり、このユートピア・エリアの規模を想定しろというのが無理な話ではある。   「確かに思っていたよりは広いかもね」   桐井だけはそれほどこの広大さに衝撃は受けていないようだった。 無論、彼女がかつて建設中だったこのエリアに一人でいられる場所を求めて夜な夜な侵入していたことは黙っていた。   「ちょっと座ろうぜ、もう歩けねーよ」   「この程度でだらしないわね」   「昨日は・・・・あんまり寝てないんだよ・・・・」   「・・・・・・・・」   浅野が下に顔を向けたまま小声で言うと、桐井は何かに気付いたようで露骨に彼から視線を外す。   「どうしたの? 2人とも顔が少し赤いよ」   「いいからいいから」   純粋な五郎と察した由美の反応は対照的だ。   「でも今日一日で周りきることは無理だ。体力を無駄に消費しない為にも、場所を絞ったほうがいいかもしれないね」   「となると、あそこか」   「連中の本拠地」   「ユートピア・タワー・・・・」   4人の視線の先にはエリア中央にそびえ立つ巨大なタワーがあった。
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