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咲宮茜は死に際にこのタワーで最後の実験が行われると言っていた。
タワーはこのエリアを高所から見渡せる展望台ということになっているが、本来の目的は別にあるはずである。
何としても阻止したいところだが、この様子では異変を察知するどころかこの広さと人の多さに慣れるだけで精一杯であった。
「タワーの中に入るのは午後にして、とりあえず何か食わないか? 腹減った」
「ここで食べるの?」
「まさか毒なんか入っちゃいないだろう。それに気を抜くときは抜かないと、いざってときに力が出ないだろ」
「まあ、確かに・・・・」
浅野の提案に最初は難色を示した由美だったが、彼の言うことも一理ある。
いつどんなことが起きるか分からないとはいえ、夜まで辺りに目を光らせながら歩き回るのは体力・気力共に多く消費することになる。
このユートピア・エリアも組織の影が無ければ本来は楽しく過ごせる場所であったわけで、本当なら思い出作りの為に4人で来ていたかもしれず、それに多少の心のゆとりも必要なのかもしれない。
「加納さん。せっかくだから、食事くらいはいいんじゃないかな」
五郎が同調し、桐井も何も言わなかったので全員で休憩を取ることにした。
「桐井さんもそれでいいよね」
「別に構わないけど。どうせ私達は何かあってからでしか行動に移れないし」
「そうかもしれないけど、出来ることなら何か起きる前に阻止したい」
桐井は相変わらず現実的な考えだったが、それも間違いではなかった。
「ねえ、連中はどうしてこんなものを作ったのだと思う? 何かしでかすつもりなら、もっとひっそりとやればいいのに、わざわざこんな大きな都市まがいのものを作って宣伝する必要は無いと思うの」
「つまり、大事過ぎる・・・・」
「ここは何でも揃い過ぎてるわ。まるで一つの国みたい。そんなものを作れば嫌でも注目されるに決まってる」
「僕も気にはなってた。今まで秘密裏に動いてきた組織にしては随分と思い切ったことをするなって」
組織の考えはやはり分からない。
「おい、なにやってんだよ、早く行くぞ」
「うん、待ってよ」
2人は浅野と由美の元へ急いだ。
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