第16念「理想郷」

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        「滑稽なものね。これから自分達の身に何が起きるかも知らずに」   司令室の巨大モニターにはユートピア・エリア内の様子が映し出されていた。 そこには様々な余興に浸る人々の笑顔があり、それを見て沙耶が妖しく笑う。 司令室には他に真、藤堂、菜々が集まっており、そして開かれた赤いカーテンから椅子に座った万場が姿を見せていた。   「ご覧下さい、お父様。この人間共の顔を。これが絶望に変わる様を見るのが楽しみでなりません」   「遂に来たか。我々の理想郷が到来するこの日が」   万場は満足気に顎を擦る。   「あと数時間後には私達の理想郷が創られます。もうしばらくお待ちを」   沙耶の言葉に万場は黙って頷いた。   「ねえ。もうシステムの準備は出来たんだろう? だったら今すぐやっちゃえばいいのに」   黒いキャップ帽を被った真が退屈そうに訪ねた。   「システムの起動準備が終わっても、起動するには少し時間がかかるのよ」   「それただのポンコツじゃないか」   「だいたいあと・・・・」   「8時間」   藤堂が静かにだが力強く答える。   「時刻にして20時ね」   「長いなあ」   思うことはそれぞれだが、司令室に漂う緊張感はその場にいる全員が共有しており、それだけ彼らが今日という日の為に全てを費やしてきたことを証明しているようだ。   「ただし、油断は出来ないわ。きっと連中もこのユートピア・エリアに来ているはず」   沙耶としては達也と茜を殺した五郎達は計画実行の前に自分の手で抹殺したかったのだが、叶わず今日に至る。 本当はすぐにでも直接殺しに行きたいのだが、今は計画の成就が優先である。   「沙耶、そろそろ始めよう」   万場のその一言で司令室の緊張感がより強くなった。   「みんな、よく聞いて。私達の計画には一分の狂いも無い。でも時間までは何が起きるかは分からない。だからそれぞれの仕事を完璧にこなして欲しいの」   沙耶の声はその細い身体からは想像も出来ないくらいに力強く大きかった。   「私はここで全体の指揮を執る。例のシステムは藤堂君に一任するわね」   「分かっている」   藤堂はいつも通り無表情に答える。 「それから計画の弊害となるであろう者達の排除。真、やってくれるわね」   「任せておいてよ」   口元に笑みを浮かべながら真も応じた。
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