第16念「理想郷」

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  「あと、桑田さんには既に動いてもらっているから。何か問題が生じたときはすぐに報告して」   「菜々は~?」   それぞれの役目を確認し終えたところで、菜々が藤堂の腕を引っ張りながら見上げていた。   「菜々ちゃんは何もやらなくていいのよ」   「菜々だけ仲間外れなんてやだ~!」   沙耶はしゃがみこんで優しく菜々の小さな頭を撫でてやったが、菜々は頬を膨らませて何かを求めるようにさらに強く藤堂の腕を引っ張った。   「菜々は預かる」   「お願いね」   藤堂は手足をじたばたさせる菜々を抱え上げた。 そして、万場は椅子に座ったまま『父』として『子』らに告げる。   「愛しい子達よ、理想郷の為に頼むぞ。今日からは私達の世界だ」   「お任せ下さい」   「心配いらないよ、父さん」   「・・・・・・・・」   彼らにとっても最後の戦いが始まろうとしていた。       「じゃあ、ボクはそろそろいくよ。細かいところは任せたからさ」   そう言って真が司令室を出て行くと、続けて藤堂も菜々と共に司令室を後にしようとするが、   「藤堂君」   沙耶に呼び止められた。   「藤堂君、頼んだわよ」   「分かっている」   「あなたのこと、信用しているからね。家族として・・・・」   「・・・・・・・・」   藤堂は沙耶に背を向けたまま去っていった。 藤堂を見送った沙耶は高らかに宣言する。   「これより理想郷創造計画を開始する! 全員配置に着け!」   廊下に待機していた多数の兵達がガスマスクから呼吸音を漏らしながら一斉に動き出す。 規律の取れた無数の足音が絶え間なく廊下に響いている。   「沙耶、後は頼んだよ。私はまたしばらく眠る」   「はい」   そう言い残して万場は自動式の椅子ごと奥に移動し、赤いカーテンが閉じられる。 司令室には沙耶が一人残された。   「達也、茜。あなた達の死は絶対に無駄にはしないわ。必ず理想郷を実現させてみせるから」   沙耶は強く拳を握りながら亡き弟と妹へ誓うのだった。
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