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「う~ん、参ったな・・・」
五郎は雑踏の中で一人立ち尽くしていた。
エリア内のレストランで昼食をとり終えた後も4人は一緒に行動していたのだが、最初に桐井がいなくなり、今度は自分がはぐれてしまったのだ。
人の流れに一旦巻き込まれるとなかなか抜け出せないばかりか立ち止まることも出来ず、今自分がどこにいるのかも分からない状態である。
五郎は何とか人ごみを掻き分けて脱すると、近くにあった自動販売機を背にして辺りを見回す。
人々はこの場所が人類にとっての『理想郷』であると信じて疑わないだろう。
今ここで五郎が組織の存在を明らかにし、ここから立ち去るように訴えても誰も聞く耳を持たないどころか、狂人扱いされる光景が目に浮かぶ。
そもそも自分も今日ここでどんなことが起きようとしているのか分かっていないのだから。
恐らく、このユートピア・エリア建造計画に携わった大企業達ですらその計画の本当の目的に気付いてはいない。
しかし、今日ここで何かが起きる。
それも人類の存在を歪めかねない邪悪なことが。
圧倒的に不利な状況下の中で、焦りを感じながらも今自分に出来ることを五郎は考える。
「優先して調べてみる価値がありそうなのはやっぱりあそこか・・・」
ユートピア・タワー。
咲宮茜が断末魔に伝えたあのタワーで行われる最後の実験とは何か。
出来ることなら今すぐにでも破壊してしまいたい衝動に駆られるほどに、ユートピア・タワーが禍々しく見えてしまう。
とりあえず今は散り散りになった4人が集まるべきだろうと思い、タワーを目指しつつ由美達に連絡を取ろうとする五郎だったが、彼の手元に突然チラシが手渡された。
目の前にはウサギの着ぐるみが立っている。
「?」
チラシには子供向けに可愛くデフォルメされた動物や汽車などの絵が載っている。
「なになに・・・・森のどうぶつたちが待っているチビッコパークにみんなで行こう・・・・汽車に乗ったりアイスクリームを食べたり、おともだちと写真をとっていっぱいあそんじゃおう・・・・」
ウサギはウキウキするような仕草をしながら五郎の反応を待っている。
「ここに・・・・僕が行けっていうのかい?」
ウサギは嬉しそうに頷いた。
「僕は子供じゃないぞ!」
どうして周りを歩いている子供達に配らず、自分に配るのだろうかと思いながら深い溜息をつく。
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