第1念 「醜さの象徴」

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それから時間的には1時間くらい経った後、由美は新しい教室にいた。 彼女の不安は殆んど消えていた。 心配していたクラス替えの結果は由美の仲の良い友人が多く、初対面でも早々に打ち解ける人でいっぱいだった。 こんなわずかな時間でこうも心情が変わるものなのかとも思ったが、案外そういうものだ。   ただ、不安が全て無くなったわけではない。 それは他の者達も同じで、その不安の種も同じだった。 教室の窓際の列の最後の座席。 学校開始のチャイムが鳴り、誰もが着席して担任教師の到着を待つばかりだというのに、その席は未だ空席だ。 いや、きっとずっと空席なのだろう。 そこはこの学校では知らない人はいないと言われる、ある生徒の座席。 由美は去年同じクラスではなかった為に噂程度にしか知らないが、とにかく問題のある人物だ。 ここにいるクラスメイト達は当然その座席の主を知っている。 だが、それについては誰も話そうとはしない。 誰しも関わりたくないのだ。
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