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一時間後。
呆然とした気分で、五木は直立していた。
「とりあえず、座ったらどう?」
「は、はいっ!」
緊張した声でそう答えたものの、五木は指し示されたソファーに腰を下ろすことが、どうしても出来なかった。
目の前には一人の学生が、大きな執務机を前に腰を下ろしている。五木とは違い、もう大人だと言われても何の問題もないような雰囲気を持っていた。漆黒の髪に飾られた秀麗な顔を、どこか柔和に崩した表情とは裏腹に、紫色の瞳は冷静に物事を判断しようと五木を見つめている節がある。 全て見透かされているような視線に、五木は視線を彷徨わせた。靴越しでも感触の良さがわかる絨毯。目の前には応接用のソファとテーブルがおかれ、片側の壁は全体が棚になっていて、資料らしきものがぎっしりと並べられている。
この部屋に入る前、扉にかけられたプレートには生徒会室と刻まれていた。
目の前にいるのは、生徒会長だ。
「名乗るのが遅れたわね。私はアルマ・セレジナ。三年よ」
魔法学院では学年は3学年まであるが、1年で生徒会に勤めているとなるとすごいことだった。
そして、生徒会長。
この学院の支配者と言うことだ。
「蔵旗五木です」
背筋を伸ばして、はっきりとした声で名乗る。額に冷たい汗を感じる。
アルマは微笑している。
部屋には五木とアルマしかいなかった。
「別に、貴方を罰しようというわけではないわよ」
苦笑気味のその声に、五木はいくぶんか気を落ち着かせることができた。呼ばれてくるまで、そして今まで、ずっとなにが起こるかわからなくて緊張していたのだ。
「まずは感謝を。貴方のおかげで新入生にはほとんど怪我人が出ることはなかったわ」
さっきの喧嘩の事だ。
騒ぎを起こしたのは、『武術』学部の新入生たちだ。どうやらどこからか持ち出した武器を持つことができて、浮かれて、早く使いたいと思う野心が、喧嘩の種になってしまったらしい。
『武術』学部・・・それは肉弾戦による戦闘に魔法を混ぜた戦法だ。その戦法を教え、育成するのが『武術』学部だ。
そんな戦闘専門の生徒が本気でぶつかり合えば、最悪、一般生徒に死傷者が出たことだろう。アルマの瞳には純粋な感謝の念が宿っているように見えた。
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