「サクラと金魚」

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   カタカタカタカタ。  コウは相も変わらずに、パソコンを打ち続けている。  ボンヤリとまどろむ私の視界の端に、赤いヒラヒラが横切った。  顔をそちらに向けると、水槽の中で金魚が二匹ゆらゆらと泳いでいる。  私がコウの元へ来る前から、この部屋にいる様だ。  私は体を起こし、水槽に向けると、また寝そべった。  前足を上下に組んで、顎をそこへ乗せる。  ゆらゆら、ゆらゆら。  大きな尾びれと背びれをゆっくりとたゆませながら、金魚は泳ぐ。 (綺麗……)  私はうっとりと、二匹のダンスを眺めた。  幼い頃から、この二匹のダンスが好きだった。  暇があれば、直ぐに金魚を見に来た。  いや、暇が無くてもか。  それに、ちょっとした出来事もあった。  その姿に、コウは心配になったのだろう。  幼い私に、こんな事を言って来た。 「サクラ、食べちゃ駄目だからね?」  し、し、失礼な!
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