30人が本棚に入れています
本棚に追加
「お客さん、つきましたよ」
タクシーの運転手さんの声で目を覚ます。
どうやら眠りについてしまっていたようだった
重々しい現実がそれまで見ていた甘い夢を壊していった
お金を清算して私はタクシーから降りた
もし居なかったらどうしよう・・・
また弱気な私が顔を覗かせる
大丈夫。
居る。
大丈夫。
私は自分にそう言い聞かせた
ドアの前に立ち 深く深呼吸をすと病院内へと入っていった
受付の人に恐る恐る尋ねて見る
すると、丁寧に病室の番号とそこまでの行き方を
小さな見取り図を出して説明してもらえた
会えるんだ、慶太さんがここに居るんだ
そう思うと半年の間
足かせをつけていたように重かった足取りは
羽が生えたように軽いものと変わっていた
909号室 斉藤 慶太様
そう書かれたプレートの前にたった
心臓がバクバクして、今にも倒れちゃいそうなほどだ
顔が熱い、手が震える。
この扉の先に慶太さんは居るんだ
深呼吸を何度もして部屋をノックする
中から、聞いた事の無いくらい無愛想な貴方らしくない口調で
「・・・どうぞ。」
一瞬ひるんだが意識をしっかり持ち直し扉を開いた
「夏美?!」
慶太さんだ
会わないうちにやつれた感じはあるけれど
半年間会いたくて、会いたくて、会いたくて、たまらなかった
愛しい人がそこには居た
「はい、夏美です、入っても宜しいですか?」
真っ直ぐ慶太さんの目を見据えているはずなのに
涙でゆがんではっきりと見えないけど、
それでも目線はそらさなかった
少しでも見て居たかったから
「・・・帰れ。」
最初のコメントを投稿しよう!