第九章【長い夜】

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別れた時と同じように感情が声にこもって居なかった 一瞬だけ後ろへ下がろうとした私が居たけれど 私はもう、決めたんだ、何があったって一緒にいるんだって 「帰りません、部屋に入るなというのなら病室の外で待ってます」 慶太さんは何も言ってくれなかった それどころか窓の方を向いてしまった 伝えたい事があったのに、すごい辛かった・・・ -伝えなきゃ- 頭の中で何度も何度も呟く 「慶太さん、そのままで構いません、聞いてください。」 やはり動く気配が無い。 慶太さんがおなか辺りが動いているのを確認すると 私は部屋に入り扉を閉めた 「私、決めました、何があっても慶太さんから離れないって決めました 一人ぼっちだなんて思わないでください。 慶太さんが私のことを考えてくれているように、私だって考えてるんです お願いですから、そばには私が付いているんだな程度でいいです それだけは何があっても忘れないでください」 そう言うと私は部屋を出るために扉に手を掛けた 扉を開けようとした時小さな声が聞こえた 「馬鹿だな夏美は。」 慌てて振り向く、 そこには優しい笑顔の貴方が体を起こしてこっちを向いてくれていた 「馬鹿だよ、なんで自分の幸せを考えないんだ? 大切な人が死んでいくのを目の前に見せ付けられる事は 不幸としか言いようが無いじゃないか。」 嬉しかった 私の知ってる慶太さんの優しい声でそう尋ねられたから 何も変わっていないんだと思うと嬉しくて顔がほころぶ 泣いてるんだか、笑ってるんだか良くわからない ぐちゃぐちゃな顔で 私はその問いかけに答えた 「馬鹿で良いです、けれどその馬鹿な事は 慶太さんから教わったんです」 「?」慶太さんは首をかしげていたけど、 構わず私はそのまま話を続けた 「前に慶太さんが幸せについて教えてくれた事がありましたよね? 《幸せにね 『ふ』っと言う文字を付けると 不幸せになるでしょう? けれども頭の文字を取るだけで 幸せってなるんだ だから、幸せなんてものは自分が決めればいいんだよ》 って そうやって私に教えてくれたじゃないですか、慶太さん 私の幸せは貴方の隣にしかない、そう決めたからこの場所に来たんです」 そう言うと私は出来る限りのとびっきりの笑顔を作って見せた 今幸せなんだって言うのを伝えたくて 作り笑いじゃない本当の笑顔を向け、 慶太さんからの言葉を待った
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