第九章【長い夜】

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もうこの世にはいないのだと 宣告を受けた 私は待合室でただ座っていた やっと会えて、これからだったのに… それだけを何十回も何百回も考えていた 何時間たったのだろう 「夏美!!」 突然後ろから慶太さんの声が聞こえた 驚きながら、私は振り返る すると、そこにはラジカセがなぜかぽつりとあった 「おーい夏美!!! 今泣いてるだろ?」 テープの彼の声に私は返事を返す 「泣いてました」 「泣き虫だなぁ、本当に」 まるでそこに居るかのように 会話が成立する 「俺、死んじゃったからさ涙を拭ってあげれないから、せめてっと思ってテープに吹き込んだんだ 幸せになれって今言ってもそう思えないと思うけど 必ず、夏美なら素敵な人が将来現れる、だからその人と幸せになって欲しい 今まで一度も言わなかった俺の我儘をかなえてくれじゃぁな」 ガチャ ラジカセを抱きしめ私は 泣きじゃくった その夜は私の人生の中で最も 長い夜だった
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