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午後十一時を回った頃。
部屋の中には実年齢よりずっと子供っぽい和泉や、彼女が騒げば間髪入れずにハリセンではたく遼はいないためかなり静かだ。
それを楽しむようにいつもの如く、ベッドをソファー代わりにして座り、本を読んでいる。
そんな時。
コンコン
控え目なノックの音が部屋の静寂を破った。
この部屋に訪ねて来るのは和泉か遼しかいないが、遼はこうしてノックをする事なく無造作に入ってくるような人物なため、扉の外にいるのは恐らく和泉。
「どうぞ?」
言葉を投げ掛けてやると、戸惑いながらドアが開いた。
申し訳なさそうな表情の和泉が顔を覗かせる。
「寝てた?」
「いえ。どうしたんです?悩み事ですか?」
珍しく今日は遼と喧嘩をしていなかった彼女は、普段通りに振る舞ってはいたがふとした時に何事かを考えていた。
気になってはいたのだが、彼女が自分からその理由を言わない限り余計な詮索はするつもりはなかった。
「んー…悩み事っていうか、ちょっと梓に聞きたい事があって」
「聞きたい事?」
「うん。あのさ、梓は何で旅してるの?」
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