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「…それは“神様”に言われたから、とかじゃなくてという意味ですか?」 頷く彼女を見て、考えをまとめるようにゆっくりと長い息を吐き出した。 何故、と聞かれれば少し困る。 「確かに、“誰かに言われたからやる”のは僕としても嫌ですしね」 「うん。ほら、遼とかもそういうの嫌がりそうじゃん?」 「嫌がりそうっていうかその通りだと思いますよ」 「やっぱり?」 「ええ。…僕はこれと言った理由はありません。今のところは」 そう。今のところは。 その微妙な言い回しに気付いた和泉が軽く首を傾げた。 「今のところって?」 「理由なんてそのうち見つかりますよ。ただ、強いて言えば僕は西に確かめたい事があるんです」 「ふーん」 それが何かは聞かずに和泉は天井を仰いだ。 濃紺の長い髪がばさりと彼女の華奢な肩を滑り落ちる。 話してくれるのなら聞くけど、話したくないのなら言わなくてもいい。 そういう時の和泉の体勢がこれだ。 決して長いとは言えないが、短いとも言えない期間がそれを教えてくれた。 「西にはある言い伝えがあるんです。それを確かめたくて。ただの興味本意ですが」 だからもの凄く気になるわけでもなく、曖昧なものだから、“今のところは”だ。 苦笑すると彼女は少しだけ口を尖らせ、「いいなぁ」と呟いた。 他に誰もいないこの部屋で、それを聞き逃す事はなかった。 「何がです?」 「私は、理由がないから」 とりあえず今は西に向かっているだけ。 西に向かえば元の世界に戻れると言っていたが、和泉はそれほど戻りたいとは思っていないようだった。 「意味のない毎日に戻るなんてまっぴら。こっちの方がずっと楽しいし。でもそうなったら西に向かう意味がない」
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