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「十六月でも、こんなに綺麗な満月が見れるのね」
「それなら、雨が降っていても綺麗な月が見れますね!」
「あら、それはいい考え」
ミストラルが熱くも無い紅茶をちょびちょびと飲みながら言った事は、本当にいい考えだった
。エテは、毎日のように月や星が見たかった。けれど、雨の日は雲に隠れてしまい、それは叶わない。でも、これからはこうやってuvaの紅茶のゴールデンリングを見て、過ごす事が出来る。これはリングを見たことが無いミストラルだからこそ思いついたことなのかもしれない。
「貴女はたまにお嬢様や私が考えないようなことを言いますね……」
「ご、ごめんなさい」
「いえ、褒めてるんですよ。それから少し羨ましい」
レーヌはミストラルの頭を優しく撫でた。ミストラルはびくびくと撫でられるがままになる。緊張している。
「でも、不思議な気分ね」
「何がですか?」
紅茶をゆっくりと飲んでから、エテは言った。
「このリングが満月だとしたら、私は今満月を飲んだことになるのよね。不思議な気分だわ」
神妙な顔つきで、またエテは自分の椅子に座る。エテは月を飲んだ。
「わ、私も飲んでみたいです」
ミストラルも、カップの紅茶を飲み干す。ミストラルは月を飲んだ。
「では私も」
新しく、自分のカップに紅茶を注いで、リングを作り、レーヌも紅茶を飲む。レーヌは月を飲んだ。
「クスクス」「フフ」「あはは」
3人は同時に笑った。何か楽しかったわけではないが、笑った。
空にはきらきらと輝く星。そしていつもより暗く輝く十六月の月。
そして、もう一つ。カップの中の満月。
夜を照らす月ではなく、誰かに飲まれる月。太陽を反射するのではなく、ただそこにある月。なくなっても、何度でも、そこにある月。常に満月の月。
結局、3人はその後すぐに夜のお茶会を片付けた。次の日も朝早くから家の仕事があるのだ、と。
でも、これからはいつでも月が見れるようになった。
雨の日でも、雪の日でも、曇りの日でも。uvaを入れれば、そこにある。
また3人で月を見ながら紅茶を飲もう。どんなに天候が悪くとも、満月でなくとも。
十六月を眺めながら。エテは満月を飲み干した。
――The moon is swallow.
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