17人が本棚に入れています
本棚に追加
/28ページ
いつも慌しい雰囲気の屋敷。沢山のメイドたちが、たった一人のお嬢様と屋敷にやってくる客人達のために慌しく働いている。しかし、今日だけはその雰囲気がいつもより重苦しいものになっていた。
2日かけて、屋敷全体を丹念に掃除。
毎日手を抜いているわけでは無いが、2週間前からいつもより新鮮、且つ高級な食材を用意しての食事作り。
有名庭師を呼んでの手入れなどなど。
いつもとは異なる、異常な雰囲気だった。
もちろん、メイド長たるレーヌもいつも以上に忙しく働いていたし、他のメイドたちをいつも以上に働かせていた。
しかし、その中で1人だけいつもと変わらない作業をしているメイドが居た。
そのメイドは、屋敷内の重苦しい雰囲気を気にも留めずゆっくりとエテの部屋へと向かっていた。
意図的に気に留めていない訳ではない。表向きは同じ仕事をしているように見えるのだ。だから、他のメイド達から悪い目で見られて居るのに気付きもしない。
それが彼女の良い所とも言える。
「エテおじょうさまー。しつれいしまーす」
そう言ってドアを開く。彼女は大切なことを忘れていた。
「ちょっ、待ちなさ――」
彼女が部屋の中に入ると、ベットの上で、エテが寝巻用のドレスを脱いでいるところだった。
「あ、エテおじょうさまお着替え中ですか?」
「…………」
「今日の紅茶は特別な紅茶だって言ってました! きっとおいしいとおもいます」
彼女はその部屋に今までに無いような雰囲気が漂っていることを知らない。彼女が女性だと言うのに、必要以上にエテが恥ずかしがっていることすら、彼女は気付いていない。同姓だから見られても良いだろうくらいにしか考えていなかった。
いつもなら何か反応を示すはずのエテが、今日は返事すらしなかった。
最初のコメントを投稿しよう!