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紅く濁ったお湯が、空色をしたカップの中に注がれる。コポコポと気持ちの良い音を立てて。きちんと暖められたカップ、きちんと蒸された葉。湯気と一緒に、お湯の香りが辺りに漂った。
お湯を注いだ人間は、そのまますぐにその場所から立ち去り、入れられたままのカップとそれを眺める人間が残った。
人間は部屋の灯かりを消して真っ暗な中、注がれた紅茶を眺めていた。入れられた紅茶を飲むでもなく、ただそれを淡々と眺める。
立ち上がり、座っていた椅子に掛かっている洋服を着る。白、そしてカップと同じ空の色をしたドレス。小さな身体だが、その洋服は、その身体ぴったりに合わせてあった。
服を着終わると、人間は再び入れられた紅茶の元に戻って、そのカップを取った。入れられてから時間がほんの少し過ぎてしまっただけで、紅茶の味は格段に落ちてしまう。紅茶の適温は熱湯に近い温度なのだが、そんなことを気にする様子もなく、紅茶を口に含んむ。
「……」
一口分含み、カップを置く。そして――
「あっっつい!!」
そう叫んだ。
すると、どこからとも無く、沢山のメイドたちがやってくる。「お嬢様! 申し訳ありません!」
「お嬢様!」
「あーだこーだ」
「いーだうーだ」
あっという間にその人は、人波にもまれてしまった。それに全く気づかず、メイドたちは一向に落ち着かない。
「誰! 今日お嬢様の紅茶を作ったのは!」
「わ、私じゃありません!」
「貴方じゃなかったかしら?」
「自分は昨日でした!」
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