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廊下をわたってくる、遠くからかすかな気配が伝わってきた。母がどんな風に歩いてきているか、母のすべての様子が想像できた。やがて、先触れの女が来て、部屋の外にすわった。つづいて、あたり一面、ぱっと光がさすような気がして、
〈母さま!〉
梵天丸は、頭をさげた。敷居ぎわに立った母の美しい足もとが目の端にはいった。
「おお、起きておいでだったのか、もう、よろしいのか?」
美しいすずやかな声であった。かぐわしい香が部屋中にただよっている。
「はいっ、母さま」
梵天丸は、声をはずませて顔をあげた。
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