不動明王

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遠い山々の谷には、雪がまだふかく残っていたが、米沢盆地は、春の陽気にむれるようであった。 明るい外から急に堂内にはいるとしばらく、なにも見えなかった。梵天丸は、たたずんだ。堂内の空気はひやりと冷たい。 遠くの方で梵天丸をよんでいる声が聞こえていた。外に出ようとしたが、堂内の暗さが、梵天丸の好奇心をくすぐった。香のにおい。それに、なにかがまじっている。全体、お寺にしみこんでいるにおいはちがいなかったが、寺のほかの建物のにおいよりいちだんと強く、こげくさかった。また、他の堂よりもなんとなく暗くて、不気味な気配がただよっていた。
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