不動明王

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梵天丸は、びくっとして、口に出していった。大きく息をすって、でかかったなみだをおさえにかかった。二、三歩あとずさって、身ぶるいしながら、おそろしい化物を見た。 〈なんだ、木隅だ……〉 動かない像である。もえる火もつくりものであった。梵天丸は、しげしげと見上げた。梵天丸になにもしかけてこない像であるが、見れば見るほどおそろしい形相であった。 遠くから、ふたたび、「若君さま……、梵天丸さま……」 と、呼び声が聞こえてきた。梵天丸は、かくれんぼう遊びの途中だったことに気がついた。乳母の喜多や守役の者が心配している。また気味も悪いし、あんまり長くいるところではなかった。
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