薄れゆく意識の水底で

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僕は立ち上がった。 ともに積み上げられた仲間達は皆、僕を恨めしそうに見ている。 僕は皆もやってみろ、と言いかけて、やめた。 それが彼らにとって幸せなのかわからなかったからだ。 僕は歩き出した。 いつの間にか猫はいなくなっていた。 ぼうっと猫のことを考えていると、不意に天地が逆転した感覚に襲われ、僕は液体に包まれた。 僕は足を踏み外して海に落ちたらしい。 ゆっくりと沈んでいきながら、海面を見ると、水面がきらきらと光りを放っているのが見えた。 僕には肘や膝の間接がないので泳ごうと努力したが上にはあがれなかった。 だが悔いはなかった。 僕は動けたからだ。 鎖を断ち切って、最後に自由を得た。 それだけで僕は満足なのだった。 海底が見えてきた。 僕は砂を巻き上げながら、ゆっくりと地に伏した。 ああ、これでゆっくりと眠れるのだろうか。 この何もない世界で。 自由以外の何もない、空虚な世界で。 僕が自由の代わりに失ったものは大きかった。 だが、処分される身にしては望みが叶った方だった。 そう 僕は満足したのだ。 このまま朽ち果てよう。海の一部となって、自然に帰ろう。 僕の運命の軌跡として。
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