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ふと振り返ると空に月が浮かんでた。
薄雲を纏ってまるで空に昇る天女のように。
嗚呼、そこに居たのね。
微かな笑みが頬を歪ませる。
月を見上げてポツリと立ち止まれば、途端に孤独感が襲ってくる。
そんな私を月は見てくれてなんかない事に気付いた。
見る見るうちに月は雲に隠れてゆく。
ねぇ、私を見てよ。置いて行かないで。
呟きも届かぬままに、どんどんと姿を隠してゆく月に私はすがった。
ねぇ、置いてかないで!お願いだから!
私の声にとうとう気付かぬまま、微笑みをたずさえた月は隠れてしまった。
暗闇の中、呆然と立ち尽くす私に、帰って来なさいと家の灯りが優しく手招きしている。
いつもいつも望む者には届かぬ願い。
帰る場所なんてありゃしないのに。
優しい光に吸い込まれる真夏の夜の蛾のように、携帯の入った重たいズボンを引きずって、私は一歩を踏み出した。
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