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◇
かわいそうな俺は無駄骨となった電車の切符を握り締めてM駅の構内へ戻ることにした。
永久をスカウトしたあの日から二週間が経った。
俺達がいつもの非日常な日常を繰り返す傍ら、相も変わらずヤツはあの事件の存在を否定し続けている。
しかも、ああやって接触を繰り返しているうちに、さっきみたく俺を拒んで避けるようになっちまったんだぜ!
酷い話だろ?
ん?さっきのは俺が悪いってか。うるせぇ、黙ってろ!
◇
「あ……」
「……うぃっす」
駅のドラッグストアの前で、見た顔にばったりと会った。
始業式の日に亜紀と三人で即席のコントをした三組の……あの細身の色白だ。
「えーと名前、なんだっけ?」
あの日、散々バカ騒ぎしたってのに名前を聞いていなかったみたいだ。
「チアキ……」
「チアキ?かわいい名前じゃん。俺はミズキ。よろしくな」
俺は満面の笑みでそう答えた。
チアキなんつったらポケビで育った俺には某遠藤の嫁の顔しか思い浮かばない。
「背中汚れてるよ?」
「ん?ああ。これ?これはねぇ……さっき永久に」
「永久?」
チアキの顔からは笑顔が消え、深刻な表情となり、微かに顔をしかめたのを俺は見逃さなかった。
「大丈夫だった?」
「え?ま、まぁフツーにじゃれ合いって言うか……何つーかさ、おふざけだから」
少なくとも俺にとっては……だがな。
永久の事情なんか知ったこっちゃない。
「ああ、なら良かったッス。それじゃあ俺は……」
チアキは皮のサブバを背負い直し、俺から背中を向けようと片足を浮かせる。
「あ」
それに待ったをかけるように、俺はバッグの紐をクイと引っ張った。
バランスを崩した彼は、俺の右肩へと身体を預ける。
あ、ちょっと力を入れすぎちった。
「なぁ、今からどこ行くの?」
「え……K楽器店に……」
「マジで?!俺も俺も!!一緒にいい?」
俺はチアキの肩に手を回してポンポンと叩く。
一度会ったらみんな友達。ステキな主義だろ?
「いや、別に構わないけど……」
チアキは瞳の小さな大きな垂れ目を困ったように向ける。
「何?腹でも痛いの?」
「どうして、離れてくれないのかなって……」
「コミュニケーション」
「はぁ?」
「よーし決まり!よろしくな!」
俺はチアキにニッコリと微笑みかけた。
「……近い……」
彼は迷惑そうに苦笑いし、俺から目を反らしていた。
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