月黄泉

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再び二輪車に股がった少年は、僕を居心地の悪い前輪かごに乗せたまま、再びペダルをこぎ始めた。 二輪車が進み始めると再びポワッと、かごの下から温暖色の光がもれた。 柵の合間から流れる風景。 その先の雑木林の中に、佇(タタズ)む人影がこちらを見つめていた。 雨に濡れた服が白い肌にはりつき、水を滴らせている少女。 その手には不釣り合いなほど大きなスコップが握られている。 じっとこちらを見据えたままの少女に、少年は全く気が付く素振りもない。 目が悪い少年を呪いながらも、確実にその少女に近付いて行く。 立て付けの悪いかごは、少年がペダルに力をかける度に激しい振動で揺れ、僕のお尻を固い柵の底に打ち付けた。 その振動が胸の鼓動と重なる。 少年のこぐ自転車がその少女の佇む雑木林の横を通りすぎようとしていた。 僕はただただかごの中で身を縮め祈るしかなかった。 通りすぎる瞬間少女は少年を見て微笑んだ気がした。 そんな事を全く気が付かない少年は、かごの中の僕に呑気に喋りかけてきた。 「おまえお腹すいただろ。待ってなすぐに美味いもん喰わしてやるからな」 そう言った少年のお腹の辺りに、二本の腕が生えているのに気付いた。 白い半透明な腕が少年の腹部にしっかりとまわされ組まれている。 少年の肩口から後ろに、黒い髪のような物が揺れていた。 少年は全くその同乗者に気が付かないのか、終始僕だけに話しかけていた。 僕は、いつからそこに同乗者がいたのか不思議ではあったが、どうでも良かった。 今はスコップ少女から逃れれた事に、安堵(アンド)の気持ちでいっぱいだった。
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