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得体の知れない恐怖に震えながら、その闇の中から目を離せない。
そんな視線に気付いたように、音は唐突(トウトツ)に止んだ。
静寂。
闇の中に溶け込むように、雨音がトタンを打つ音だけが響いていた。
闇が揺らめきこちらに近づいて来るような感覚。
知らず知らず後ずさっていた僕は、入り口のドアにお尻をぶつけていた。
(ガッタ!)
目をつぶりかけた時、背後で扉の開く音がした。
「大人しくしてたか?」
眼上より響く少年の声。
安堵と同時に暗い物置に射し込んだ僅(ワズ)かな光が、闇の中に浮かぶ2つの眼孔を写した。
感情の欠落した無表情な瞳。
オマエハ ダレダ
モルモットを見つめる冷たい目がそう語りかける。
反射的に僅かに空いた扉の隙間から、少年の足の合間を抜け外に駆け出していた。
「おい待てよ!」
何か叫ぶ少年の声がした。
だが振り向く事なく、追従する足音を振り切り、草むらの中、身をおどらせていた。
取り残された少年は諦めたように、手にした皿と注がれた液体を見つめ、小屋に引き返していった。
物置の闇の中、僅(ワズ)かに開いた隙間から流れる湿気た外気と淡い光。
唐突にそれを遮り、差し込まれた腕と皿。
小屋の外で少年の声が響いた。
「明日またやればいいか」
闇に浮かぶ二重の眼光だけが、僅かに開いた外界から突き出された少年の腕と、その姿を見ていた。
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