序章

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…音のない世界って本当にあるんだ…。 私の足音以外、何も聞こえない。 サクッ… サクッ… 「おばあちゃ~ん!」 サクッ… サクッ… あぁ、そうだった。私、山の中でおばあちゃんと逸れたんだっけ。 サクッ… サクッ… 白の世界。 自分だけが色を纏っていて、その事がとても寂しさを感じさせていた。 「はぁ。」 このまま雪に埋もれてしまえば、この白の世界と同化して寂しくなくなるかもしれない。 夕焼けが妙に明るい。 振り出してきた雪を掌で受け止めて、その場で蹲った。 同化してしまおう。 目を瞑り、じっとしていると雪の音が聞こえてきた。 なんだ、音がするのは私だけじゃなかったのね。 少しほっとすると、今度はとても眠たくなってきた。 もうすぐ同化する。 この世界の住人になるんだ。 「なんだ。可笑しなやつが入ってきたなと思っていたが、なんともちいさいの。」 変な声。低いけど、風みたいで心地いい声。 ずっと聞いていたいな。 「まだ体は動くだろう。立ちなさい。ここはお前の来る世界ではない。」 居てはいけないの? 「そうだ、ちいさいの。お前の世界へ帰りなさい。」 まるで操られているかのように私は立ち上がった。 「真っ直ぐ進め。歩みを止めるな。」 私はのろのろと一歩を踏み出そうとして、ふと後ろを振り向いた。 …恐竜がいた。とても綺麗な雪色の肌に、燃えるような目が私を見ていた。 その目が暖かそうで、私はつい甘えてしまった。 「寂しいから、一緒に来てくれる?」 その時の恐竜の目が忘れられない。一瞬怯えた目をしたかと思うと、今度は燃え盛る火のように睨みつけられた。 …それだけだった。恐竜は忽然と消えてしまった。 私は仕方なく、その恐竜の言われた通りに真っ直ぐ進んでいった。 けれどさっきと違って少しも寂しくなかった。
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