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―なんで女に生まれたんだろう…
悔やんでも仕方のない事だけれど。
龍一族の当主は、代々、一族の男の中から選ばれる。綾の祖父はそうして選ばれた現当主だ。例外はない。
祖父の子供は綾の父親一人だけで、父親の子供は綾一人だけだった…母親が幾度か代わったが、綾以外産まれなかった。父親は男の子を切望し、綾を省みる事はなかった。きっと綾が今日で18歳になった事も知らないだろう。
幼かった綾は、父親に気に入られようと必死に術を研いた。そのおかげで一族の中でも優秀な式使いになっていたが、父親が綾に関心を持った事は一度としてなかった。
「…はぁ…」
水の長が次期当主の選定に入って、およそ10年…未だ当主は決まっていなかった。
―早く決まってしまえば、お父様も諦めるだろうに。
一族の者達は噂した。当主の資格たる者が生まれていないのだと…綾の父親だけではなく、子供を産む事が一族の中で流行っていたのだ。
「綾ちゃん。」
呼びかけられて振り向くと、母親が立っていた…そう、何番目かの母親だった。「何かありました?お父様がまた?」
父親はなかなか妊娠出来ないと、ひどく母親にあたる。今までの経験で綾は解っていた、この「母親」もダメだった事を。
「いえ、違うの。お父様が綾ちゃんを呼んでいらっしゃるの。」
「…私を?分かりました、すぐに伺います。」
大方の予想はついていたので、父親から話しを聞いても驚かなかった。
「娘よ、もう年は16を過ぎたな。私の従兄弟の正寿の所へ嫁ぎなさい。」
綾は嫌悪感で少し体を震わせた。正寿は46歳。倍以上の年の差のある所へ嫁ぐなど、18歳の綾には受け入れ難い事だった。
「しっかり男を産みなさい。女の役割はただ其れだけだ。」娘の気持ちを、女の気持ちを、何も考えていない物言いに、綾は吐き気がした。
―男など消え去ってしまえ!
「はい、畏まりました。」
父親の部屋を去った後、綾はお風呂場で手首を切って死んでいた。
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