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久しぶりに暖かい昼間だった。過疎化とは無縁の土地だが、隣村までの距離は遠く雪が降ると道は閉ざされてしまう。
珍しく暖かい日に、ひなたぼっこでもするかのように、縁側でお茶を啜っている翁がいた。丁度その縁側からは大きな池が見える。池を眺めているようだ。
ふと手を止め、湯のみを縁側へ置き、翁は池へ向かった。
「なんぞ、村で起きたかの?」
まるで独り言のように池に話しかけた。
すると…
透明な物体が池の中から出てきて、みるみるうちに、それは龍へと姿を変えた。「主よ。孫娘が死んだぞ。」
青い目を翁に向けて言った。
翁はしばらく目を瞑り、溜め息をついた。
「息子の執着が、綾を死へと導いたか…。息子も哀れ、綾も哀れ…。」
「もうそろそろ、村の者に真実を話すべきではないか?次の当主が決まっている事を伝えれば、このような事はなくなるだろうに。」
「水の長よ。次期当主が育つまで、と思っております。大事の前の小事に過ぎません…幼さ過ぎる当主では、今以上のもめ事も起きましょう。まして、外部の人間となれば益々…。」
青い目は翁をじっと見つめていたが、それ以上は言わなかった。龍もまた、この閉鎖的な村の有り様を良く知っており、憂いていたのだ。
外の人間や式の使えない者を無能と罵り、自分達は特別な存在だと思い込み、進化を止めてしまっている村人達に、外の世界へ逃げ出した村人の子孫が自分達の当主となるなど、屈辱以外の何物でもないことも知っていた。
その中へその幼子を入れてしまうのは危険である事も確か。だからこそ、水の龍は黙し続けたのだ…新たな主を守る為に。
「あと数年、あと数年すれば新しい風が吹き始める…それまでは私の体も持つでしょう」
青い目をじっと見ながら、まるで暗示をかけるかのように呟いた。
それにも応えず、龍は水の中へ消えていった…。
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