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†
「ふぅ…」
エステルを助け人物は軽く息を漏らした。
その人はエステルの肩の後ろと膝の裏から手を入れる形で彼女を抱いている。
俗に言うお姫様抱っこと言うやつだ。
「お怪我はございませんか、お嬢さん?」
その人はエステルに微笑みかける。
少し光沢を帯びた灰色の髪をしており、襟足を長めに伸ばしている。
顔立ちはかなり美形だろう。下手をすると女性に見えなくもない。柔和な感じがする目をしている。
「えっえっえっ!?あの!?……だいじょぅ………」
エステルは顔を真っ赤にして狼狽する。大丈夫です、と言いたかったのだろうが最後の方は聞き取れなかった。
「それは良かった」
ヨシュアが双剣を納めてエステルたちのところに戻ってくる。
「すいません、助かりました」
ヨシュアは頭を下げた。
男は柔らかく対応する。
「いえいえ。ご無事で何よりです」
「それで、エステルを降ろしてもらえませんか?」
ヨシュアは笑っていたが、どこか黒いものが混じっている気がした。
「おっと…これは失礼。確かに美しい女性を汚らわしい男の手に触れさせておくのはよろしくありませんね」
男は申し訳なさそうに柳眉を下げた。
「失礼しますよ、お嬢さん」
男はゆっくりと丁寧にエステルを降ろした。
「あ、あの…ありがとうございます…」
「いえ、当然のことをしたまでです。お気になさらないでください」
男はもう一度微笑んだ。
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