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朝…窓からはカーテンを通して柔らかい朝日が射し込み、小鳥がさえずりながら元気よく飛び回っている。
そして、もう一つ…
哀愁漂う…だがどこか優しい旋律が少しくぐもった音で流れてくる。
彼のハーモニカだ。
エステルはその旋律に誘われるようにゆっくりと目を覚ました。
「ん~~~っと」
エステルは大きく体を伸ばした。
ベッドを降りて、ハーモニカの音がする方に向かう。
ベランダに出ると、一人の黒髪の男がいた。
彼はエステルが来たことも気にせず旋律を奏で続ける。
やがて、演奏が止まった。
エステルは拍手をする。
黒髪の彼が微笑みながら振り向いた。
目には琥珀色の光をたたえている。
「おはよう、エステル」
エステルも彼に━━ヨシュアに微笑み返した。
「おはよう、ヨシュア。相変わらず上手いわね、『星の在り処』」
「うん…。フフ…」
ヨシュアが唐突に笑みをこぼした。
「えっえっ、何!?」
エステルは急にヨシュアが笑ったのでうろたえる。
「いや、父さんが出発したあの日の朝とおんなじだなぁ、って思って」
「そういえば、あの朝もこんな感じだったわね…」
あの朝━━つまり一連の<身喰らう蛇>による<福音計画>が始まったあの日の朝のことである。
ただあの頃と違うのは━━
「今はお互い正遊撃士だけどね」
エステルとヨシュアはお互いに笑みをこぼした。
「おーい、メシだぞ~」
一階から声が聞こえてくる。
「だってさ、エステル。行こうか?」
「そういえば、お父さん帰ってきてるんだっけ?」
「うん、軍部の仕事も一段落したみたいだよ」
二人は一階へ降りていった。
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