第一章-とある朝のブライト家-

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† 「そう言えば…」 エステルがオムレツを切ながら言う。 「三人揃って食事するのも久しぶりね」 「そうだね。僕らもけっこう長い間外国にいたし、父さんも仕事が忙しかったから」 ヨシュアが同意を示す。 「まぁ、あの一件からだいぶあったからな。やっと俺も一段落というわけだ」 あの一件━━━情報部によるクーデターは王国軍の各所の綻びを顕にした。 乱れた王国軍の立て直しのためにカシウスは再び軍部に復帰したのだ。 「それにしても、よくモルガン将軍から休暇とれたわね」 「いや、女王陛下のお計らいだ。あの頑固じいさんがそうそう休暇を許すわけないだろう」 カシウスはやれやれと首を横に振った。 「あはは…、相変わらずね。モルガン将軍も。他のみんなも元気かなぁ」 「クローディア殿下と女王陛下はご健勝だな。特にクローディア殿下はメキメキ成長なさっている。シードやユリアとか軍部関係者も皆元気だ」 「父さん、レンはどうしてます?」 ヨシュアが少し心配そうに尋ねる。 影の国の一件の後、<身喰らう蛇>から抜けた<執行者><殲滅天使>レンを追っていた、ヨシュアとエステルは遂にレンに追い付いた。 約束した通り、家族なろうと言ったときのレンときたら、顔をくしゃくしゃにしてエステルに泣きついていた。 その後、リベールに帰国し、しばらくレンと過ごした後、レンをカシウスに任せ再び外国へ行っていたのだ。 ヨシュアは自分とエステルがいなくなった後のレンを心配しているのだ。 「そんなに心配そうな顔せんでも大丈夫だ。今はラッセル博士のところに預けてある。少しませてるがいい娘じゃないか」 カシウスは朗らかに笑った。 「そうなんだ…、良かった」 「顔でも見せといてやれ。ティータも喜ぶだろう」 「そうね…。今日行ってみる、ヨシュア?」 「うん、いいと思うよ」 「ところで、エステル」 「何?お父さん?」 「父さんに会えなくて寂しくはなかったのか?」 「全然」 即答である。 「……そうか」 「父さん…」 即答されてうなだれる父が少し可哀想に思えたヨシュアであった。
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