会話【築宮瑞希】

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 一時間ほどして漸く、私は居間に向かう事が出来た。思いの外、物置で手間取ってしまったのだ。ダンボールが多く、空き缶の中にも猫が居たりして、暗い中を素早く動くものだから厄介で、何とか五匹―――恐らく物置の中に居た猫は全部―――見つけたが、どれも探している猫とは違って、要するに、徒労に終わった。結局、私の担当していた場所には探している猫は居なかった、という事だ。  居間の戸を開けて入り、色々と驚いた。 「遅かったね、卓磨君」  まず、柳先生。思いっきり、猫達と遊んでいる。リュックのポケットの蓋が一つ開いている事から察するに、どうやら自分で持ってきたらしい猫じゃらしで、五匹ほどの猫をからかっている。ちゃんと猫探しをしていたのか、非常に不安でならない。  そして次に、居間自体。まず、広い。居間というより、大広間のほうが似合いそうである。先刻、築宮瑞希に家の平面図を貰った時に驚いたのは、これが理由だ。家の敷地面積の半分近くが、居間に占領されているのだ。そして、これはもはや、居間と言うより猫の遊び場と言った方が正しい。机と椅子とテレビと電話が無ければ、居間とは絶対に呼べない。四隅に有るのは、どう見てもおしゃれなインテリアではなく、猫が遊ぶためのタワーだ。猫用のトイレもあちこちに有るし、確実にこれは、人のための部屋ではなく、猫のための部屋に間違いない。
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