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……驚いた。確かに柳先生の言うとおりだった。何故この人は、人が読んでいる本の内容を知っているのだろう。その上、どうしてページを見てもいないのに、読んでいる話まで理解できるんだ。
「一応、前に読んだ事があるからね。クリスマスの話は一番最後だから、残りのページで大体分かるよ。ん、まあ、大体の季節は出揃ってるわけだし、その本でも良いか。ああ、でも、せっかく夏なんだから、あの妖怪小説の方が良くないかな。季節感バッチリ。どうせ同じ出版社のノベルズなんだし」
余計なお世話だ。的を射た意見と言えなくもないが、読む本を人にどうこう言われたくはない。第一、私は既にあの小説を読了している。というより、二桁程度には読み返している。
「うん、でもまあ、あれには猫は出てくるけども、猫メインじゃないしね。ああ、五徳猫の話は有ったか。いや、それはともかくとして……」
柳先生は私の顔を凝視してから、ニタリと笑って、言った。
「久しぶりだね、卓磨宏和君」
「お久しぶりです、柳先生」
こうして、長い長い雑談の末、漸く私は柳先生と、まともな挨拶を交わしたのである。
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