依頼【柳先生】

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 柳先生の話を要約すると、こうだ。  柳先生のお隣さんの親戚のおばあさんで、上谷三沙子という人が、この辺りに住んでいる。彼女は一人暮らしだったが、一匹の猫を飼っていた。名前は「ネコ」。というより、無名。本当は、よく寝るから「寝子」だという噂もあるらしいが、ともかく呼び方は変わらない。家族のいない上谷三沙子は猫の事を、それはそれは大切にしていたらしい。しかし、その猫というのが非常に厄介な散歩癖の持ち主で、突然フラフラと出掛けては、一週間や二週間してひょっこり戻ってくる、なんて事がちょくちょくあったという。だから今回も、最初はそんな長い散歩だと思っていたらしい。ところが、二週間、三週間経っても猫は帰ってこない。近所で猫が事故に遭ったという話は聞かなかったから、まだ安心してもいいだろうか、と考えていたが、結局待ち続けて四週間、一ヶ月。流石に、これはおかしいと心配になって……。 「親戚を通して、僕に依頼してきたんだよ」  それがおよそ、二週間前の事。早速行動を開始した柳先生は、近所の人たちに聞き込みをしたり、電信柱に張り紙をしたりして―――見る限り、この辺り全部の電信柱に張ってあるようだが―――猫探しに精を出した。保健所などの記録を調べたり、隣の市まで調査にも行ったらしい。だが結局、それらしい猫の情報は得られなかった。分かったのは、何処かで死んでいる事は無さそうだ、という事だけ。しかし、それならば何故猫は帰ってこないのだろう。
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