始章 ネコのちキミ

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「はあぁぁぁぁ……」  つい、長いため息が漏れた。  学校の下駄箱から外を見ると、例え傘をさしても全身ずぶ濡れ必須な雨が降っていた。  今は五月の初め、梅雨には少し早いところだ。 「さっきまでまだ小降りだったのになぁ。……チキショウ、天気予報士の野郎。何が、『午後からは素晴らしい晴天に恵まれるでしょう』だ。恵まれるのは水不足に困る農家の方々だけじゃんか」  昇降口に誰もいないことを良いことに文句を呟いてみる。  ……なんか余計虚しくなったな。 「……やれやれ」  明らかに僕の身体のサイズに合っていない小さな折り畳み傘をさし、突き刺さるような雨の下に出る。  そして、生徒一人見当たらない放課後の学校を駆け足で抜け出した。  校門をくぐった所で、乱れた息を整えるためにスピードを落として歩く。  どうやら僕の体力は所詮帰宅部仕様らしい。こんなにも簡単に息が上がってしまった。  自分の体力の無さを実感しつつ、真っ暗どんよりざぁざぁの空の下をしばらく歩く。  どんよりざぁざぁは無視するとしても、真っ暗なのは時間が時間だからだろう。今は午後八時。  よい子なら家族とテレビを見ながら、楽しげに雑談をする時間であろう。
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