始章 ネコのちキミ

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 保育園児、幼稚園児、小学校低学年に訪れていた頃からすればかなり廃れてしまっているが、それでもやはり懐かしい。  ……昔はよく、母さんと来てたな。 「……おっと、いけない、いけない」  危うく過去へとタイムスリップしかけするとこだったな、と苦笑いする。  ただでさえ今日は家に帰る時間が遅いのだ。早く家に帰って、炊事、洗濯を済まさなくちゃな。  改めて今日やるべきことをリストアップしたところで、公園から身体を背けようとした。 「……あれ?」  背けようとした際に、公園の端にあるペンキが完全に剥がれ落ちたベンチの所に妙な光景が視界に入ってしまったのだ。  視界の悪い雨の中目を凝らす。  そこには少女がいた。  空から一杯に降り注ぐ大雨で身体全身びしょ濡れになることもいとわずに、ベンチで背中を丸めて何かを守るように俯いている。  それに気のせいか。なにやら泣いているようでもある。  ……いや、気のせいに違いない。腹部辺りが何故か赤く染まっていることも。 「……うーん」  新手の水浴びかな、とバカバカしい予想を捨てて、他の予想を考える。 「……めんどくさい」  だがすぐに考えることを放棄した。ただならない様子ではあるがそれがどうしたと言うんだ。別に彼女が何をしていようが彼女の勝手だ。失恋だろうが、イジメだろうが、腹痛だろうが知ったこっちゃない。
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