始章 ネコのちキミ

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 僕は優等生じゃないし、最後まで必殺技をとっておく優しいヒーローでもない。早く家に帰ってゆったりとしたい、しがないただの高校生なのだ。 「そう言うわけで、では帰ろ──」 「あっ!」  背を向けた公園から、僕の存在に気づく少女のものであろう声がした。  ……ついていない。全くついていない。 「あ、あのっ! すいませんっ!」  背後からくる、必死に訴えかけてくるような力強い声がどんどん大きくなっていく。それと近付いてくるのがはっきりと分かる駆け足の音。  その音が耳に響く度に後悔する。あぁ、さっさと帰っておけばよかったな、と。  ていうか、こんな時間まで補習させたメガネ先公のせいだ、と。午後晴天になると抜かしやがった天気予報士のせいだ、と。 「す、すいませんっ!」  背後からすぐに声がする。もう真後ろにいるらしい。  もうここまできたら仕方ない。そう腹をくくって僕は後ろを振り向いた。 「この子を助けて下さいっ!」  振り向いた瞬間。色んな意味で度肝を抜かれた。  そこにいた少女は自分と同じくらいの歳で、黒のセミロングのおとなしそうな可愛らしい、どこにでもいそうな女の子だった。オプションとして涙で潤んだ瞳付き。
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