始章 ネコのちキミ

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 ……いや、これはいいとして。  問題は、そのか細い腕には腕が赤一色で染め上げられた黒い子ネコが抱かれていたことだった。  その出血量はかなりのものようではあるが、血のあまりついていないお腹が仕切りに上下しているのを見て、生きているのは確認できた。  ただそれでも、医者とかに果てしなく遠い素人の僕にでも分かるくらいの大ケガだ。早く処置なりしないと弱る一方だろう。  なるほど、ベンチであんなに背中を丸めていたのはこのネコを雨から守っていたからか。 「お願い、お願いします! 早く、早くこの子を」 「ちょっ、まぁ落ち着いて」   彼女の肩に手をかけそう諭す。腫れ上がった血走り眼で見上げられると、妙な迫力があった。  すると、僕のその行為が功をせいしたか、彼女は、すいません、と俯いた。……とは言っても僕だって内心では動揺しまくりだった。  ……それに彼女には悪いけど、ホントは今すぐ彼女とネコを置いて猛ダッシュでこの場を逃げ出したい気持ちだ。やっぱり僕は主人公には向いていない体質だと言うことを実感する。  それでも、どうやら人並みの良心と言う奴が僕にもあったらしく逃げ出すことを許してくれなかった。 「まったく……」
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