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─*─
とんとんとんとん。そんなリズミカルな音がキッチンに響いている。
断っておくが、これは別に鈴本が急成長した訳では無い。俺が切ってるんだ。
「い、いいよ?私がやるよ?」
申し訳無さそうにそう言うけれど
「いや、今日はいいよ。俺が作ってやるから」
俺はそれを丁重にお断りした。
別に俺は鈴本を責めたりしない。コイツはホントに良く頑張った。ただこれ以上やったら、鈴本が死んでしまうような気がしてならなかった。
「手当てしなさい」
もう鈴本の手はズタボロなのだ。もうホントに見てられない程に。
「………うん、ありがと」
そう微笑んで、半ば不意討ちに感謝してきた鈴本にドキッとしてしまったことで、俺の手元が若干狂ってしまった。
「あ、な、中原君!?」
「…………なに?」
「て、手っ、手ぇ大丈夫!?」
そうだな。包丁が俺の右手に切り込み入れてる所から……赤い液体がドロドロドロドロと……。
「よ、ゆゆーだし」
『余裕』って言いたかったんだけど、動揺とか痛みとか、もうワケわかんなくて噛んでしまった。
皆が恐れる『氷王子』はどこへ消えたのか?それは一番俺が聞きたいことであった。
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