一番手 レッド・シグナル

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「ウールフォルクにしか魔獣は探せないんだ。……やむを得ないだろう」 襲われるのが田畑ならば、そこに罠でも仕掛けて待っていればいい。 だが、襲われるのが人の命ならば…失ってからでは、遅いのだ。 魔獣の所在を突き止める方法があるのならば、先手を打つに越したことはない。 だが現実は、そうも都合のよい話ばかりでもないのだ。 広い国土に百万を越える人口を抱え魔法文化の先端を行く諸外国ですら、探知の魔法を使いこなす術者は極めて稀少であり、この国に至っては数年前まではなんと一人も居なかったのである。 ただ魔獣の脅威に脅えるしかなく、いつ滅亡するとも分からなかった小さなこの国にやっと現れた一筋の希望── それが探知魔法の使い手であった初代ウールフォルクであり、継承の儀式によってウールフォルクの魔力を後代へと受け継がせてきたオリオンなのである。 「ま、ここでウダウダ言っててもしょーがねぇだろ。とっととやっちまおうぜ」 ボサボサの髪を無造作に掻きながら、イングバーはやけに軽い調子で言ってくる。 「テメェ──」 「ああん?」 すぐにアクアが不愉快そうにきつく睨み付け、イングバーも不遜な目付きのまま真っ向から威嚇を返すが、団長が二人の間にすっと片手を割り込ませる。 「ウールフォルクは俺が抑える。イングバーとアクアで魔獣の本体を探せ。助けたいなら、なおのこと迅速にだ。 ランシッドは俺のサポート、ネイアドはブラウンを護ってやってくれ」 振り分けから、隊長の意図がひしひしと伝わってくる。 迅速に、の一言はアクアのやる気を促すものだろうし、何より今のアクアをウールフォルクに接触させたらまず間違いなく返り討ちにあうだろう。 イングバーに任せても、これも間違いなくやり過ぎるに違いない。 ブラウンを独りにする訳にもいかないし…隊長と僕の二人で彼女を抑えなければならない。 ……正直、肉体労働は苦手だが僕だって当然彼女の身を案じているし、無事に助けたいと思う気持ちはアクアと同じだ。 そしてきっと、隊長だって。 しかし、イングバーは無茶を言うなと渋い表情で頭を振る。
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