二番手 アナザー・パープル

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「……苦しいよ…助…けて……」 背筋がざわつき、全身に強烈な身震いがひろがる。 いや、身体だけじゃねぇ。 心もムチャクチャ震えた。 聞き間違えるハズもねぇ、今のはあいつの声だ…! 「…なんだこれ?」 不精に伸ばした藍色の頭髪を無造作に掻きながら、相変わらず苛つくほどに場違いな軽い調子でイングバーが訝る様に細めた目付きをオリオンに向ける。 オリオンは眉根に深い皺を刻み、ますます険しい表情になった。 「普通に考えれば、彼女の声がここまで聞こえてくる筈もないしな。魔獣が、こちらの動揺を誘う為に何かしらの魔法を用いて彼女の声帯を使って声を飛ばしてきたのだろう…」 聞いた瞬間、また俺の苛立ちが沸点に到達する。 つーか、さっきから怒りの臨界境界線越えまくりだっつの。 あーもうマジでイライラする…!! 「…フン。やっぱり俺がやってやろうか?」 プチッときたね。 俺の中で何かが切れた気もしたけど、どーでもいい。 俺は露骨な害意と威圧を込めてイングバーを睨み付け、奴も狂気に淀んだ瞳で高圧的に見下ろしてくるが、すぐにオリオンが俺らの間に割って入ってくる。 「憑依が強力な様だと、彼女の体力を低下させただけでは魔獣の支配を引き剥がせないかもしれん。最悪、ランシッドの気の魔法で精神面にも関与する必要がある。お前だけには任せられん──」 「おう、待て待て!それは後遺症が残る可能性もあっから危険だってさっきあんたが言ったんだろうがよ!」 俺は思わずオリオンに異議を唱えたが、しかしオリオンは瞳を揺らさず硬い意思を示してくる。 「それは…ランシッドの技量とウールフォルクの精神力を信じるしかあるまい」 オリオンの横に立つランシッドの表情が、僅かにひきつるのを俺は見逃さなかった。 こざっぱりと短く刈り上げた橙色の髪に、気の弱そうな細い糸目と緩い口元、あと視力が悪いらしく銀縁の眼鏡をかけている。歳は確か俺より一回りは上だっつってたか。 服装は部隊共通の硬いパッドを仕込んだ黒地の胴着だが、こいつは医療担当なのでその上からさらに白衣を羽織っている。 正直、俺はこいつがそんなにキラいでもない。 本気でヤな野郎が多い部隊の中では比較的裏表のないほうだし、専門分野の医術に関してもこいつの扱う気の魔法はこの国じゃ充分上級クラス、普通に戦力となってるほうだってのも認める。 …つっても、だ。
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